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誹謗中傷に関する判例・事例

誹謗中傷の判例を説明する男性

誹謗中傷を行った人(加害者)に対し、被害者はどのような「制裁」を加えることができるのでしょうか?
懲役や罰金と言った身体や財産に直接的な罰を与えるのであれば“刑事罰”、損害を受けたことに対して賠償を求めるのであれば“民事訴訟”、若しくはその両方という選択肢があります。
実際にあった事例とそれに対する裁判例(所謂「判例」)をご紹介いたしますので、ご参照ください。

刑事裁判例

ネット上の誹謗中傷に起因して起こった刑事事件についてまとめました。
量刑や事件の概要について予め確認しておきましょう。

グロービートジャパン対平和神軍観察会事件

ラーメンチェーン店“らあめん花月”を展開する「グロービートジャパン」が新興宗教団体と深く関わり合いを持っているとして、個人が運営するサイト上で誹謗中傷を受けたという事例です。
男性はウェブサイト上で同社の誹謗中傷を繰り返しており、被害者からの告訴を受けて2004年12月に東京地方検察庁によって起訴されました。
また、刑事事件と並行して営業妨害を理由に3,150万円を請求する民事訴訟も提起しています。

裁判結果
ネットが普及して来た2000年代前半に起こった同事件は、非常に多くの関心を集めました。被告人は、第一審では無罪とされたものの、二審では一転し有罪判決。再降下裁判所への上告が棄却されたため、名誉棄損罪により罰金30万円が確定しました。また、民事裁判では「被控訴人とX(振興団体代表)とは一定の関係があると評価することは誤りではない」と、両者に一定の関係性があったことを認めるものの、被告人に対して77万円の賠償を命じています。

民事裁判例

刑事裁判で無罪又は不起訴になったとしても、誹謗中傷によって受けた損害は「民事訴訟」によって賠償を請求することが可能です。
民事上の裁判例をご紹介したいと思います。

保守速報裁判

他国にルーツを持つ方が、まとめサイトによって権利を侵害されたとして損害賠償を請求した事例です。
「保守速報」では、2ch(現5ch)に書き込まれた韓国や中国に対する差別的な書き込みやスレッドをまとめ、サイトを通して不特定多数の人へ発信していました。

これにより名誉棄損・いじめ・脅迫・業務妨害を受けたとして、フリーライターの李信恵さんはサイト管理人に対して2,200万円の損害賠償請求を提起。
サイト管理人は「書き込まれたものをまとめただけ」として争う構えをみせたため、“自身が行っていない書き込みに対しても誹謗中傷は成立するのか?”が争点となりました。

裁判結果
結論から申し上げますと、裁判所は保守速報に対し損害賠償として200万円の支払いを命じ、上告が棄却されたためこれが確定しました。判旨では「本件各ブログ記事は控訴人(保守速報管理人)が一定の意図に基づき新たに作成した一本一本の記事であり、引用元の2chのスレッド等からは独立した別個の表現行為であること」とし、書き込みをまとめただけでも場合によっては誹謗中傷に当たることを認めています。
ヘイトスピーチに対する賠償

2014年に「在日特権を許さない市民の会(在特会)」が京都朝鮮第一初級学校の周辺で繰り広げた街頭演説がヘイトスピーチ及び名誉棄損に当たるとして、朝鮮学校側が損害賠償を求めた裁判です。
“表現の自由”が憲法で保障されている日本ですが、団体の街宣活動は名誉棄損に当たるのでしょうか?
なお、同団体ではネット上でも多くの誹謗中傷を繰り返しており、過激な言動が度々問題視されていました。

裁判結果
大阪高等裁判所は「団体の街宣活動が社会的な偏見や差別意識を助長し増幅させる悪質な行為であることは明らか」であるとして、約1,226万円の損害を認めた上に学校から半径200m以内での街宣活動を禁止する判決を下しました。また、刑事事件でも侮辱罪・威力業務妨害罪・器物損壊罪され、計4人が逮捕を受ける事態となりました。
かなめ行政書士事務所ブログ

東京都清瀬市内で「かなめ行政書士事務所」を開設している行政書士Aは、インターネット上のブログで、ある会社(以下「X社」といいます。)の社債を「新手の詐欺」と呼び後悔しました。
X社は弁護士であるBを通してAに削除を求めましたが、Aがこれに応じず、また、Bも自身のブログでAの誹謗中傷を行っていたため、泥沼の裁判へと発展しました。

裁判結果
「被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布しているか」が大きな争点になりましたが、東京地方裁判所はAの責任を認め、50万円の支払い命令を出しています。また、同時に誹謗中傷を行ったブログ内の記事削除も命じており、ブログによる社会的な信用棄損を認めた結果となっています。
ブログ記事による社会的評価の低下

マンション(以下「甲マンション」と言います。)の横を資材置き場としていたA商店が同場所に於いて産業廃棄物処理業をはじめました。
甲マンションの住人Bはこれに猛反発し、自身のブログにA商店の誹謗中傷を繰り返し行い、遂にA商店は同事業を廃業せざるを得なくなるまでに追い込まれます。
A商店は同ブログへの書き込みによって社会的な評価が低下したとして、住人Bに対し541万円を求める裁判を提起しました。

裁判結果
名古屋高等裁判所は、住民BのブログがA商店の社会的信用を低下させたことを認め、100万円及び訴訟費用の支払いを命じました。一審ではA商店の請求を退けたものの、二審ではA商店の請求を認める形となっています。なお、「舞い散る粉じん」「けたたましい重機の騒音」など、住民Bが誇張した表現を用いて誹謗中傷を行っていた背景も判旨理由の一つとして挙げられています。近隣住民かつ一定の迷惑を被っていたとしても、過度な誹謗中傷は控えた方が賢明です。
2ちゃんねる投稿によるプライバシー侵害

医師であるAは、同業者であるBクリニック(美容外科及び形成外科)に対し、2ちゃんねるのスレッド内で繰り返しBの誹謗中傷を行っていました。
Aは「医学的知見を前提にした書き込みを行っており、公正な論評として名誉棄損には当たらない」「同掲示板においては真偽が入り混じっていることは閲覧者も理解した上で利用している」など、真っ向から対立。
インターネット上の書き込みが名誉棄損やプライバシー侵害に当たるのかが争点となった裁判です。

裁判結果
美容外科はインターネット上での評判が集客に大きく影響するため、Aの書き込みによって利用者が低下したこと及び社会的評価を低下させたことを認めました。また、AがBの子どもの名前とクリニックの名称との関係性を具体的に示していたため、プライバシー権の侵害も認められ、Aに対し110万円の損害賠償を命じています。
池田信夫氏による名誉棄損裁判

児童買春の調査で来日した国連の報告者が行った「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」との発言が、実際は“13%”の誤訳であり、後に訂正しました。
池田氏は、当該発言の発端が弁護士である伊藤和子氏によるものであると断定し、自身のSNSやブログで誹謗中傷を行うという事態に。これを受け、伊藤和子氏は誹謗中傷によって社会的な信用低下を被ったとして、660万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

裁判結果
裁判で池田氏から「伊藤氏が報告人に対して虚偽の報告を行ったこと」の根拠が一切示されることは無く、東京地方裁判所は57万円の損害を認め、池田氏に対して支払命令を下しています。しかし、池田氏からの謝罪が無かったことで伊藤氏は判決を不服とし控訴。控訴審では一審の約2倍である114万円の損害賠償の支払いが命じられましたが、謝罪文の掲載については認められませんでした。
様々な裁判が行われる裁判所

※当記事の一部は以下の判例やニュース記事を基に作成しております。

参考インターネット白書「ARCHIVES」
https://iwparchives.jp/files/pdf/iwp2010/iwp2010-ch06-02-p176.pdf

参考朝日新聞2018年12月12日保守速報裁判に関する記事
https://www.asahi.com/articles/ASLDD65DWLDDUTIL05P.html

参考産経新聞2014年7月8日ヘイトスピーチ訴訟に関する記事
https://www.sankei.com/west/news/140708/wst1407080048-n1.html

参考裁判所判例検索「東京地方裁判所平成24(ワ)11119信用毀損行為差止等請求事件」
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=82813

参考平成24年12月21日判決名古屋高等裁判所(ネ)第771号損害賠償請求控訴事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/969/082969_hanrei.pdf

参考裁判所判例検索「大阪地方裁判所第4民事部平成23(ワ)4576損害賠償請求事件」
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=82763

参考弁護士ドットコム「池田信夫氏による名誉棄損訴訟」
https://www.bengo4.com/c_23/n_6279/